横浜市を拠点に活動するプロオーケストラ、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の楽団員の仲間が昨年、神奈川県公務公共一般労働組合(財)神奈川フィルハーモニー管弦楽団分会を結成しました。
神奈川フィルハーモニー管弦楽団は1970年の設立で、日本オーケストラ連盟の24正会員の一つ。年10回の定期演奏会のほかに、オペラやバレエ、式典での演奏、県内の小中学校での移動音楽教室など、様々な演奏活動をおこなっています。文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」では、全国の小学校も訪問。テレビ朝日の長寿番組「題名のない音楽会」への出演でも知られています。
西村分会長をはじめ組合員は、小学校での演奏活動について「子どもたちの反応が良くないところは一つもない」「使命感と誇りを感じている」と話します。そしてイベントや学校での演奏で神奈川フィルを知ってもらい、定期演奏会にも足を運んでくれる人が増えることを期待しています。「いい音楽を多くの人に聞いてほしい」という、音楽家としての強い思いです。
プロの音楽家が労働組合員でもある――。そこには、ヨーロッパがそうであるように、「音楽家がユニオンに入っているのは当たり前」という意識と、楽団員が置かれた厳しい現実があります。
オーケストラは、どこの国でも国や自治体の助成金を受けています。神奈川フィルも県や文化庁などの助成を受けています。しかしヨーロッパなどと違い、日本では助成は充分なものではありません。
神奈川フィルでは厳しい環境に加えて、楽団理事会が展望を示せずに楽団員の待遇を切り下げるだけの状況が続いています。賃金カットは10年におよび、今では25%以上にも。さらに一時金もゼロになるなど、労働条件は悪化の一途で、楽団員は本当に苦しんでいます。
組合員の一人は、「学生時代は、専門的に勉強したことが活かせると期待していた。しかし入ってみたら、本当に生活が大変」と話します。いま楽団員の年収は、40歳代で平均300万円台。しかも楽器もステージ衣装も練習場所の確保も自分の負担です。楽団側はさらに、60歳定年制を提案しています。神奈川フィルでは、退職金がないかわりに定年制もありません。退職金がないままに定年制となれば、60歳以降の生活は成り立ちません。分会の要求は、「人並みの生活がしたい」という切実で譲れないものなのです。