2013年から15年にかけて、生活保護制度の扶助基準が改悪され、最大で10%もの支給額引き下げが強行されました。この生活扶助引き下げ処分の取り消しを求めて、全国で1000人(提訴時の人数)を超える生活保護利用者が裁判をとりくんでいます。
神奈川でも当初47人が横浜地裁に提訴し、画期的な勝利判決を勝ちとっています。神奈川労連は、最低賃金と年金とあわせて、労働者の所得のナショナルミニマムを保障する大事なとりくみとして、「25条共闘」と位置づけ、裁判の始まる前から支援を行ってきました。
高裁で判断のわかれた愛知と大阪の事案について、6月27日に最高裁が統一判断となる歴史的画期的な勝利判決を示しました。最高裁前に駆けつけた神奈川の原告や支援者も喜びをわかちあいました。
物価を偽装して
裁判ではいくつかの争点がありましたが、違法とされたのは引き下げの根拠の一つとされた「デフレ調整」のやり方です。「デフレ調整」とは、物価が下落したことによって、相対的に生活扶助水準が上がったので、その分を削減するというものです。
しかし「デフレ調整」の根拠として厚生労働省が示した「物価の下落」は、統計の偽装といえる問題がありました。1つは、テレビやパソコンなどの価格の下落が大きく影響していることです。生活保護利用者は、こうした教養娯楽耐久財を多くは購入できる状況ではありません。
もう1つは、物価変動を試算する際に、特異な物価上昇のあった年を起算点としたことにより、下落幅を大きく見せるというやり方です。当時、政権復帰した自民党が選挙で「生活保護費の10%削減」を公約し、それにつじつまを合わせるために厚生労働省が考えた物価偽装そのものです。
判断の過程が問題に
行政には幅広い裁量権があるとされ、行政に対する裁判で訴えた側が勝つことは極めてまれです。しかし、何でもやって良いわけではなく、この間の行政を相手にした裁判のなかで、「判断過程審査」が確立してきています。
今回の裁判では、生活扶助基準の引き下げについて「その決定に至る判断の過程および手続きに誤りや欠けていることがなかったか」という観点から、「統計などの客観的な数値との合理的な関連性や、専門的な知見との整合性」があったのかが審査されました。
そして最高裁は、「物価変動率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等による審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない」ことから、基準引き下げが生活保護法に違反し違法であると判断したものです。
謝罪もしない厚労省
最高裁の判断が示されたことにより、東京高裁で審理が進められている神奈川の事案でも勝利判決となることが確実です。他の全国の裁判でも最高裁判決にならった判断が示されることになります。
しかし、最高裁判決後に原告や弁護団らが厚生労働省に要請を行っていますが、謝罪もせず違法の是正についても何らの方向性も示さない、異常な対応が続いています。
神奈川労連としても支援を継続して、厚労省に誤りを認めさせること、原告たちの権利が回復されることを求めていきます。また、この判決を契機に、物価上昇のなかで生きることさえままならないような生活保護制度の抜本改善をはかるとともに、生活に困ったら誰もが気軽に権利として活用できる「生活保障制度」の確立を求めていきます。