2025年7月14日、憲法改悪阻止神奈川県連絡会議(神奈川憲法会議)が声明を発表しました。
「参政党が創る新日本憲法(構想案)」に対し、立憲民主主義と平和主義の危機を訴える声明
1 国会および地方議会に所属議員を有する参政党が、2025年5月、「参政党が創る新日本憲法(構想案)」(以下「構想案」といいます。)を発表しました。参政党は、この構想案について、現行憲法の一部を改正する「改憲」ではなく、国民自身が主体となって一から憲法を創り直す「創憲」を提唱するもの、としています。
2 この構想案は、多くの問題点を抱えています。
とりわけ、個人が有する各種の人権を最高法規である憲法に規定し、市民自身の手によって国家の方向性を選択することを可能としつつ、市民の多数派によって市民の少数派へなされる人権侵害をも防ごうとした立憲民主主義を大きく後退させるものとして、私たちは危機を訴えざるをえません。
また、戦争の惨禍を二度と起こさないという決意のもと、平和主義を基本理念のひとつに据え規定されたものが日本国憲法であるという過去を、構想案は、まるでなかったことのように書き換えてしまうものなのです。
3 そもそも、日本国憲法は、80年近くの過去に制定された憲法であるにもかかわらず、詳細な人権規定を置いています。この人権規定の各条文は、ひとりひとりの人間がもつ尊厳を、国家が蹂躙しつづけてきた過去を反省のうえ、人類の英知を結晶させ、人権の根拠とするためひとつひとつをあえて法の条文として憲法に規定し、国家権力といえどもこれら条文に規定された人権を蔑ろにしてはならない、としたものです。幸福追求の権利、平等権、参政権、請願権、国家賠償請求権、奴隷的拘束からの自由、思想および良心の自由、信教の自由、集会結社や出版その他表現の自由、居住移転および職業選択の自由、学問の自由、婚姻の自由、健康で文化的な最低限度の生活が保障される権利(生存権)、教育を受ける権利、勤労の権利、労働者の団結権、財産権の保障、適正手続の保障をはじめとする刑事事件における被疑者や被告人の諸権利、刑事補償請求権など、多くの人権規定は、過去に行われた人権侵害を二度とくりかえさないため、あえて憲法に明文として規定し、人権侵害を防ごうとしたものなのです。
ところが、構想案では、こうした詳細な人権規定が大きく削除されてしまっています。人権規定とみられるものは、構想案では8条に総合的な規定がおかれ、9条に教育、11条に医療の選択、13条に政治参加についての規定がみられる程度です。しかも人権であるはずの「権利」を「権理」とする新しい考え方で言い換えています。これでは、私たちは何を盾にして国家権力による蹂躙から護られるのか、全くわからなくなってしまいます。大昔の人権侵害が繰り返されていた時代に、構想案では逆戻りしてしまうのです。
4 日本国憲法の基本理念である平和主義についても、構想案では大きく後退しています。もはや、平和主義の放棄と言ってもよい条文の体裁です。
そもそも、紛争の解決手段として戦争を選択しない、というのが日本国憲法の9条であり、戦争の惨禍が二度と起こることのないようにという制定の経緯が記載されたのが日本国憲法の前文でした。ところが構想案では、これらの重要な規定が完全に削除されています。
構想案は20条に「自衛軍」の規定をおいて、自衛のためとして軍備を合憲化しています。自衛軍が軍事行動を起こすための条件は規定されておらず、国会の承認を要するという歯止めをかけてはいるものの、憲法上は事実上のフリーハンドとなっています。
また、構想案第4章は「国まもり」として章をもうけ、そのなかの15条「目的」では「国は直接間接の侵略や危機を未然に防ぎ、国民の安全や自国の産業を守り、国家の独立を保ち、子孫に引き継ぐことを目的に、国まもりの総合的な指針を定める」と規定います。
構想案の15条と20条の規定と合わせて読むと、危機を未然に防ぐためであれば、日本国の領土領海領空を超えて、自衛のために他国を攻撃することも許されるという解釈が可能になってしまいます。これでは、大日本帝国憲法の下、日本国の権益をまもるためという名目のもと、他国を侵略したことの再来になってしまいます。
このように、日本国憲法が制定された過程、過去の反省に基づいて採用された平和主義を、構想案は放棄してしまったもの、と断ずるほかありません。
5 これらのほかにも、日本国籍を有する者のみに権利や権益を認めようとする排外的な姿勢、天皇に国政への実質的な関与を行わせること、検閲の禁止や通信の秘密保障、投票の秘密保障、政教分離原則といった人権保障のための制度に関する規定がないこと、刑事手続における適正手続の保障規定がないこと、裁判所の身分保障や独立の規定がなくなっていることなど、多くの問題点を構想案は有しています。
国籍を問わず全ての「ひと」を大切にするヒューマニズムを放棄し、国家権力の暴走を防ぐ手段が極めて薄くなっていることなどからして、現代に求められる「憲法」の名を与えられるべき法の姿から、構想案は大きくかけ離れたものであると言わざるをえません。
6 以上より、参政党が掲げる構想案に対し、立憲民主主義と平和主義の危機を、当会議は強く訴えるものです。
2025年7月14日
憲法改悪阻止神奈川県連絡会議(神奈川憲法会議)