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2018年3月6日

画期的な和解内容 グリーンディスプレイ青年過労事故死事件

2018年2月8日の #グリーンディスプレイ #青年過労事故死裁判 の勝利和解報告会で配付したの資料です。

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裁判所和解勧告受諾にあたっての声明

2018年2月8日

グリーンディスプレイ青年過労事故死裁判弁護団

グリーンディスプレイ青年過労事故死裁判を支援する会

原告 渡辺淳子

 

1 本日、原告は、横浜地方裁判所川崎支部民事部の裁判所和解勧告を受諾しました。

  裁判所は、和解勧告において、過労死が深刻で大きな社会問題であり、過労死等防止対策推進法で過労死の撲滅が求められていることを踏まえ、「本件の悲惨さと、大学卒業後に未来を絶たれた被害者の亡航太の無念さ、その遺族である原告らの悲痛な心情と極度の落胆と喪失感に思いを致すとき、社会的な意義をも有する民事訴訟を担当することのある裁判所においても、無視することは許されない」と決意表明しました。そして、裁判所は、本件和解が過労事故死を防止する新たな社会規範となること、被告が謝罪・再発防止を示し賠償金を支払う和解による解決が「慰霊のための何よりの策となる」と考え、和解を勧告しました。

私たちは、裁判所への深い敬意とともに本和解勧告を受諾するものです。

 

2 本訴訟は、最愛の息子の渡辺航太さんの早すぎる死にさいなまれ深い絶望のなかにあった原告渡辺淳子さんが、航太さんの名誉に賭けて過労による帰宅途上の事故についての会社の責任を追及し、若者の過労死を繰り返さないために、一周忌であった2015年4月24日、提訴しました。

原告の訴えは、全国の多くの市民の共感を呼び、グリーンディスプレイ青年過労事故死裁判を支援する会を中心に結集し、原告の想いと願いを受け止め、全力で支え、広汎な支援を繰り広げました。

今回大きな成果は、原告の必死の訴えと弁護団の奮闘、多くの支援者の運動と、過労死の撲滅を願い、二度と被害者を繰り返してはならないと願う広汎な世論の力、そして人権救済の砦としての責務を深く自覚した司法の良心が一体となり実現したものです。

 

3 裁判所は、企業には労働者の通勤方法についても安全配慮義務を負うという法規範を打ち立て、グリーンディスプレイ社に義務違反があることを断罪しました。本件は、通勤退勤途上の過労事故について会社の責任を明らかにした点で、画期的な先例としての意義があります。

同様の過労事故死は、深夜不規則労働の職場など、公共交通機関を利用して安全に通退勤できない多くの職場において、再び繰り返されうるものです。本件を機に、過労事故を防ぐ企業の責任が我が国において法規範・社会規範となり、各企業において対策が進み、過労死防止対策が前進することが期待されます。

グリーンディスプレイ社は、再発防止策として、EUでは最低基準とされているものの我が国の労働法では定めのない11時間の勤務間インターバルを先駆的に導入する他、過労事故防止のため深夜タクシーチケット交付制度の導入すること等確約しました。グリーンディスプレイ社が、事故を引き起こした責任に対する深い反省と謝罪のもと、今なお過労死を繰り返す企業社会においてあるべき模範を示し続けることを決意し、再出発することを期待します。

 

4 本件が勝利和解によって終結しても、航太さんが淳子さんと共に暮らした家に帰ってくることは二度とありません。航太さんの短い生涯と引き替えに残されたこの和解が、地球よりも重い一人ひとりの命を大事にする社会を創る希望となることを願うものです。

 

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グリーンディスプレイ事件青年過労事故死事件 裁判所和解勧告受諾の意義

2018年2月8日 弁護士 川岸卓哉

 

第1 和解内容の概要

 ①解決金

 ②被告会社の過重な労働の起因する本件事故によって死亡したことによる謝罪

 ③再発防止策(①勤怠管理を徹底して過重労働とならない業務遂行計画の策定②11時間のインターバルをとることを就業規則に明記して周知徹底を図ること③男女別仮眠室の設置。深夜タクシーチケットの導入)と実施状況のHPでの公表。

 ④記者等への公表の同意

 

第2 「司法の良心」をみる 格式高い和解勧告の意義

1 過労事故を防ぐ会社の安全配慮義務の先例を打ち立てる

(1)認定事実

 ・本件事故日、本件事故以前10日間、1ヶ月間、2ヶ月間及び6ヶ月間いずれも、心身に対する負荷が顕著に高く、深夜及び早朝の勤務を含む不規則で、過重な業務に従事しており、疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていたことが原因で、居眠り状態に陥って運転操作を誤り、事故死するに至った。

 ・深夜早朝の業務のときには、原付バイクによる出勤を指示、容認していた。

(2)裁判規範の前進

「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないよう注意する義務(安全配慮義務)を負うものと解するのが相当である。」

→安全配慮義務の内容として、通勤方法についても会社に責任を認める法規範を打ち立てる。

 

2 先例としての会社の過労事故死対策の社会規範化の意義

「これまで「過労死」の社会問題は、「過労死」及び「過労自殺」の類型の労働災害に限定して報じられてきており、本件のような過労ないし極度の睡眠不足のよる事故死という「過労事故死」は、過労死対策法が定める「過労死等」の定義に該当せず」「過労死」「過労自殺」に並ぶ労働災害の事故として「過労事故死」の類型が潜在的にあり、本件事故がその氷山の一角であるとすれば、本件事故の先例としての意義が高いと言い得よう。」「労災事故に係る損害賠償請求訴訟における裁判所の判断の内容は、裁判規範として同種訴訟の参考となることはもちろん、企業においても、これまで法令遵守(コンプライアンス)の参考として重要な価値を有するものと位置付けられており、このようにして社会規範にもなり得るものであるからである。」

 →深夜不規則労働の過労事故の起こりうるあらゆる職場に対して対策を義務化の社会規範が打ち立てられる

 

3 過労死をめぐる働き方改革の状況のなか、航太さんの命の重みに向き合い、司法の職責を高らかに宣言

「現在、あらためて「過労死」に関する社会の関心が高まっており、「過労死」の撲滅は、我が国において喫緊に解決すべき重要な課題であり、「過労死のない社会」は、企業の指揮命令に服する立場の従業員や、その家族、ひいては社会全体の悲願であるといえよう。これを達成するためには、「過労死」の防止の法的及び社会的責任を担うそれぞれの企業において、「働く人の立場・視点に立った『働き方改革』を推進して、長時間労働の削減と労働環境の誠意に努めることが求められていると思われ、そのような社会的機運の高まりがあると認められる」  

「本件の悲惨さと、大学卒業後に未来を絶たれた被害者の亡航太の無念さ、その遺族である原告らの悲痛な心情と極度の落胆と喪失感に思いを致すとき、社会的な意義をも有する民事訴訟を担当することのある裁判所においても、無視することは許されないと思われるのであり、当裁判所は、本件事故に係る本件訴訟の解決の在りようについて、真摯に、深甚に、熟慮すべきであると考えるところである」

「裁判所は、和解による解決として、真の紛争の解決と当事者双方にとってよりよい解決をすることも希求する職責を国民から負託されていると考えるからである。」

「被告が、本件に係る当裁判所の判断を真摯に受け止め、これを尊重することを期待してする当裁判所の和解勧告を受諾し、被告が本件事故に対する謝罪と、今後の同種の事故の防止を確約する内容を含む裁判所の和解案によって本件を早期に解決することは、原告らにとって、亡航太の遺志に沿うもように思われるところであり、慰霊のための何よりの策となると考えられるのである。」

「被告が、被告の大事な従業員である亡航太に生じた本件の悲惨な事故を重く見て、これを、被告における就業を通じて社会貢献をしようと考え「好きな仕事に巡り合えた」と夢を力に変えて最大限の努力をしていたという亡航太の地球よりも重い生命を代償とする貴重な教訓として、使用者たる被告に直接投げかけられたものと把握し、これを、真正面から受け止め、多数の従業員を擁する企業としての被告の決意と、亡航太の遺族に対する謝罪の意思とを表明し、法令遵守の企業姿勢を明確に社会に表することは、とても重要であると考えられる。」

→「働き方改革」と、航太さんの命の重みから、責務を自覚する司法。航太さんに思いを寄せ、法的責任を明らかにするだけでなく、謝罪、賠償、再発防止による社会規範化により、慰霊をする決意を示す。

 

4 「働き方改革」で取り入れられるべき再発防止策を示し被告の模範企業としての再出発

(1)深夜不規則労働の職場に対して「働き方改革」の模範となる対策

①11時間のインターバル規制の意味 

EU労働時間指令における休息時間規制は最低基準として11時間のインターバル規制。「働き方改革」関連法案では法規制化されない予定だが、週休1日と合わせれば時間外労働の上限は月78時間。過労死基準の80時間を下回り過労死はなくせる。政府案100時間の上限規制より抜本的解決になる。

②仮眠室の設置、深夜タクシーチケットの導入

  過労事故を防ぐために、会社の責任で経済的負担をし、安全に帰宅できる方法を確保するための実践例

(2)被告に模範企業としての再出発の道を示す

 「被告が、むしろ、本件を契機に、多数の従業員を擁する企業として、「過労死」を撲滅することを約し、二度と「過労事故」を生じさせないことを宣言して、社会的責任を果たしていく、在るべき企業の範たるものとなり、その先駆けとして、今後も、被告における長時間労働を削減し、労働環境の整備を実行し、これらを継続していくことが望まれるのであり、期待される」

最後に 「司法の良心」を覚醒させたものはなにか

・短くも生涯を閉じた航太さんを想う渡辺淳子さんの魂を削った訴えが、多くの市民やメディアを突き動かしてきた。多数のメディアで報道され、毎回の期日では、支援者によって傍聴席を埋める。非公開和解期日も調停室を包囲。全国から合計1万5000以上の毎月の署名提出。

・裁判長の言葉「私にも航太さんと同じ年の息子がいる。我がことと考えて書いた」裁判官を官僚から人へ変えた

・過労死弁護団全国連絡会議共同代表 松丸正弁護士の言葉 『過労死、そして過労運転事故死の遺族が描いてきた「道」。希望とは道のようなもの。多くの人が歩くから道が拓ける』

・過労死撲滅を訴え続けた遺族の闘いの歩みの道を引継ぎ、航太さん、淳子さん、弁護団、支援者、世論、そしてこれに動かされた裁判官のみんなの力で勝ち取った

 

2G20180208

和解勧告【要旨】(横浜地裁川崎支部)

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